地域資源情報

11 日本酒

その他の参考情報

特徴の補足説明

【酒蔵の分布】

備考)信越県境付近にある市町村(破線で挟まれた地域)の酒蔵のみ掲載。
出所)国土地理院数値地図および関東信越国税局「酒蔵MAP(平成29年12月現在)」をもとに作成

【信越県境地域の酒蔵】
魚沼地方
上越地方
北信地方
長野地方

a1 酒蔵数の多さ

【清酒の製造免許場数ランキング(平成29年度末)】
都道府県別
税務署管内別

出所)平成29年度国税庁統計データをもとに作成

a2 消費量の多さ

飲酒量の多さもさることながら、お土産や贈答品としての需要の大きさも影響していると考えられる。

【成人一人当たりの清酒消費ランキング(平成29年度末)】
都道府県別
新潟県内

出所)平成29年度国税庁統計データおよび総務省「推計人口(H29.10)」をもとに作成

a3 杜氏の存在

日本三大杜氏については、公式見解としては確認していないが、下記以外の文献でも記載がみられる。
越後杜氏は、刈羽杜氏、越路杜氏、野積杜氏、頸城杜氏で構成されており、このうち頸城杜氏の中心地は現在の上越市である。

a4 独自開発による酒米生産

【酒米生産量ランキング(平成29年度)】
都道府県別
品種別

http://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/

■ 五百万石などの開発(新潟県)

新潟県醸造試験場の設立にあたっての使命のひとつに酒米の県産についての調査研究があった。その後新潟県農業試験場で研究が重ねられ、昭和32年に「五百万石」が誕生した。34年には需要と供給の調整から、栽培適地の指定がされているが、特別指定地域には津南町の一部、普通指定地域には上越市、妙高市の一部が指定されている。
五百万石は、麹がつくりやすく、淡麗できれ
いな酒質となるといわれる。
また、主に吟醸酒用の酒米開発を目指し、2004年にはこの五百万石と山田錦とを掛け合わせた「越淡麗」が誕生した。

【五百万石などの生産地トップ5(平成29年度)】

備考)産地品種銘柄以外の数量も含む。
出所)農林水産省(米穀の農産物検査結果)

■ 美山錦などの開発(長野県)

長野県では、戦中から戦後にかけての酒米不足を受け、それまで他の酒米を他県から移入していた状況を打開する必要に迫られた。そこで、長野出身で秋田酒を銘酒にした秋田県醸造試験場長の花岡氏に相談したところ、長野県農事試験場で作り上げた信交190号の存在に気づかされたことから、昭和27年に「たかね錦」が誕生した。昭和39年には、たかね錦と山田錦をかけあわせた「金紋錦」も登場した。これらにより、酒米を自給するようになった。
また、昭和53年には、たかね錦に代わる「美山錦」が育成され、酒造適性と耐冷性の強さにより広範囲に普及した。なめらかできれのよい、さっぱりとした酒質になるといわれる。
なお、かつて地元産の良質米「たかね錦」や「美山錦」までも新潟県などへ売り込み、地元では安い米を使って酒を量産した時期があり、かつて新潟を上回る高い品質であった長野の酒の評判を落としてしまったという指摘もある。

【美山錦の生産地トップ5(平成29年度)】

備考)産地品種銘柄以外の数量も含む。
出所)農林水産省(米穀の農産物検査結果)

特徴の成り立ちと影響の補足説明

b1 豪雪地帯が生み出す水や気温など

鉄や銅などのミネラルは酒造りに悪影響を及ぼすことから、酒造り用の水は、水道水より厳しい品質が求められる。
また、古くから、酒造りに適した水はミネラルを含む硬水で、灘などの水が高く評価されてきたが、製造技術が発達した現在では、軟水による酒造りも進んでいる。軟水による酒造りを確立したのは広島の醸造家といわれている。軟水は、発酵がゆっくり進むため、まろやかで飲み心地やわらかい酒になる。新潟県の水はほとんどが軟水であるといわれている。

b2 米どころ

– 長野県木島平村の金紋錦 –
金紋錦の主産地は、米どころとして知られる木島平村。1970年ごろの最盛期には村内の金紋錦を含む酒米生産は約7000俵あったが、85年には2000俵あまりに落ち込んだ。県内の酒蔵が手を引く中、88年に石川県の老舗酒造「福光屋」が契約栽培による全量買い取りを始めた。やがて酒の好みが多様化、地産志向も高まり、金紋錦を求める酒蔵が県内にも出てきた。現在、金紋錦の栽培者は20数人で若い農家もおり、栽培面積は増えている。

b3 技術継承への努力

新潟県醸造試験場の設立は、明治時代以降、酒造技術が全国に普及して生産量が増加する中で、産地間競争が激しくなったことに加え、羽越線の開通などで他の産地から酒が移入する危機感が高まったことなどがきっかけとされる。
また、新潟県清酒学校は、産業構造などの変化に伴い、技能集団である杜氏制度による酒造技能の継承が難しくなる中、1984(昭和59)年に、全国に先駆けて設立された。新潟県立吉川高校には、1957~2003年まで国内でも唯一となっていた醸造科があった。

1907(明治40)年から開催された「全国清酒品評会」では、初期はほとんどが灘と伏見で占められていたが、大正14年までには京都、広島、秋田が、昭和3年にはさらに島根、長野、熊本、福島が登場した。この時から、信州清酒が自他ともに任ずる銘醸地となったとされる。

b4 街道沿いの宿場町の存在

新潟県内では、江戸時代の航路網発達に伴い、直江津(今町)・柏崎・出雲崎・寺泊・新潟・岩船の港を中心として海岸筋や河川による水運の便利な地域、あるいは北陸や信越を結ぶ街道や三国街道沿いなどに酒造業が発展したといわれている。
江戸時代の長野県は、細かく分割支配され、街道、坂道も数多く存在した。よって、多くの城下町と陣屋があり、宿場も多いことから、それに付随して酒造業も発展したといわれている。

b5 研究開発の努力

新潟県は、軟水が多く、本来はまろやかでさっぱりしたお酒が特徴であったが、戦前戦後にかけては甘口の酒が売れていたことから、売れる酒づくりのため、全国的にも新潟でも、濃醇甘口の酒造りが行われていた。
しかし、昭和55年を過ぎることから、ふるさと志向の風潮とともに「地酒」への関心が高まり、銘酒といわれるお酒も誕生する。昭和60年ごろからは、新潟県の生産量が伸びるが、これは世間の嗜好を早くとらえ、飲みやすい酒を目指した結果といわれている。
長野県には、県独自の酒米に「美山錦」、「ひとごこち」などがあるが、全国的な開発競争が激化する中、世界に通用する地酒を生み出すため、県農業試験場、県工業技術総合センター、信州大学工学部、県酒造組合の産学官で新しい県産酒米づくりに取り組んでいる。2017年3月農林水産省に登録出願しており、数年後に登録の見通しとなっている。

参考文献・サイト

(日本酒全般)
・農林水産省:日本酒をめぐる状況、日本酒原料米の安定取引に向けた情報交換会(平成28年3月22日)資料
http://www.maff.go.jp/j/seisaku_tokatu/kikaku/160322.html
・国税庁:平成28年度全国市販酒類調査
・国税庁ホームページ(お酒に関する情報) http://www.nta.go.jp/taxes/sake/index.htm
・日本酒造組合中央会編:日本酒と日本文化
・秋山祐一(1994):日本酒、岩波書店
・江原絢子・石川尚子(2009):日本の食文化-その伝承と食の教育-、アイ・ケイ コーポレーション
・山口昭三(2009):日本の酒造、九州大学出版会、
・池谷和信(2013):生き物文化の地理学、ネイチャー・アンド・ソサエティ研究第2巻、海青社
・鈴木芳行(2015):日本酒の近現代史 酒造地の誕生、吉川弘文館
・尾崎恭彦ほか(2014):SAKE SALON JAPAN、Design Farm+Resort.Lcc
・たばこ総合研究センター(2010):酒(談別冊)
(新潟県)
・新潟日報事業者(2003):新・にいがた地酒大国、新潟日報事業所
・日本醸造協会、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(2016):日本酒学、洋泉社
・新潟県酒造組合小史編さん委員会(2003):新潟淡麗の創造へ、新潟県酒造組合
・松本春雄(1961):新潟県酒造史、新潟県酒造組合
・中村豊次郎(1999):越後杜氏と酒蔵生活、とき選書
・企画集団ぷりずむ(1993):特集 新潟の酒、ゆきのまち通信9号
・新潟淡麗倶楽部(新潟県酒造組合)ホームページ http://niigata-sake.or.jp/
・佐々木ゆみ子、恒文社編集部(2009):八海山、恒文社
・渡井卓生(1983):越後の吟醸酒-「八海山」の蔵を訪ねて-、紳由の会
・八海山  恒文社編集部/編 — 恒文社 — 2009.7 —  (新潟発ブランド物語 2)
・八海山ホームページ(季刊誌「魚沼へ」)
・嶋悌司(2007):酒を語る、朝日酒造
・新潟市歴史博物館(2008):平成20年度企画展 酒蔵~近代新潟の酒造り~
・新潟清酒達人検定協会監修・新潟清酒達人検定公式テキストブック編集委員会編(2007)
:新潟清酒達人検定、新潟日報
(長野県)
・田中武夫(1970):信州の酒の歴史、長野県酒造組合
・朝日新聞長野総局 編(2018):信州の日本酒と人、川辺書林
・信濃毎日新聞社(2008):酒蔵で訪ねる信州
・長野県酒造組合ホームページ https://www.nagano-sake.or.jp/
・中部経済連合会(2017.10):特集 中部だより
・信州いいやま観光局ホームページ(いいやま日本酒ものがたり)
https://www.iiyama-ouendan.net/special/nihonshu/

更新履歴

  • 2022年6月7日 「その他の参考情報」を追加しました。
  • 2022年4月21日 ページを公開しました。