地域資源情報

03 植 生

その他の参考情報

特徴の補足説明

a1 植生の境界(ツバキの分布)

新潟県におけるユキツバキの分布は、平野を除いてほぼ全域にみられることから、「県の木」に指定されている。
石沢(1996)によれば、新潟県内での分布域の幅が広く、分布密度も高いことから、現在の分布の中心(北限は秋田県、南限は滋賀県や福井県などの説がある模様)ともいわれている。

a2‐1 象徴的なブナ林

【ブナ林の分布(全国)】

出所)環境省生物多様性センターホームページ

【ブナ林の分布(信越県境付近)】

出所)環境省「5万分の1現存植生図メッシュ」(1979~1998)および各市町村ホームページなどをもとに作成

‐ 日本の自然100選(森林文化協会・朝日新聞社) ‐
森林文化協会(朝日新聞社創刊100周年を記念して設立された公益法人)と朝日新聞社が1982年に全国から候補地を公募し選定したもの。
この中で選定理由にブナ林があげられているのは、十日町市「天水越のブナ林」を含む6か所その他は青森県蔦温泉の自然林、秋田県白神山地、栃木県鷲子山、石川県鉢伏山、岡山県臥牛山)、うち日本海側のブナ林は4か所のみ。

‐ 森の巨人たち100選(林野庁)‐
国有林で次世代への財産として健全な形で残していくべき森林生態系に着目し、その代表的な巨樹・巨木を選定したもの。この中でブナが選定されているのは、樹齢約400年を誇る飯山市の「森太郎」を含む4本(その他は秋田県の「白神のシンボル」、「日本一のブナ」、「あがりこ大王」)のみ。

‐ 輝く新緑 散策したいブナ林ランキング(日本経済新聞 2018)‐
山歩きガイドや写真家ら10人に対し、2018年時点でお勧めの散策ブナ林を聞いたもの。この中で、信越県境地域のブナ林は、6か所も選定されている。

【輝く新緑 散策したいブナ林ランキング】
(日本経済新聞 2018)

出所)日本経済新聞2018.5.12(日経プラス1)輝く新緑 散策したいブナ林ランキング をもとに作成

– モニタリングサイト1000(環境省)-
2005年、日本の生態系の基礎的な環境情報を長期的に観測する地点として、環境省が約1,000か所を選定したもの。
このうち森林草原地域のコアサイトは20か所だが、この中に志賀高原「カヤの平」のブナ林と「おたの申す平」の亜高山帯針葉樹原生林が選定されている。
また、日本海側の落葉広葉樹林を対象とするコアサイトは、この「カヤの平」と岩手県の「カヌマ沢」の2つのみである。

– 水源の森100選(林野庁)-
森林の役割の紹介などを目的とし、水を仲立ちとして森林と人との理想的な関係がつくられている等の代表的な森について、林野庁が平成7年に選定したもの。
この中で、奥裾花(長野市)は「全国有数のブナ原生林をはじめ手つかずの自然が残る森」との記載がある。

– その他特徴的とされるブナ林 –

出所)平成29年度国税庁統計データをもとに作成

a2‐2 身近なブナ林(豪雪地帯におけるブナ林の特徴)

ブナは豪雪に対して強い樹木であり、日本海側の深雪地域ほどブナの純林が発達し(ブナ以外の木は育たないということもできる)、逆に積雪の少ない太平洋側のブナ林では、ミズナラなどの混合林になっている場合が多い。
また、九州から近畿地方までの西日本では、1,000m以上の高い山地にしかブナ林は見られないのに対し、中部地方や関東地方では800m以上の山地帯にはブナの天然林の育成が見られる。
このため、この地域をはじめ豪雪地帯では、比較的低標高にもブナ林があり、人里に近いことから身近な林としてブナが利用されてきたといわれている。

参考 白神山地との比較
ブナ林は照葉樹林と並んで日本の代表的なものであるが、用材または薪炭材として利用された結果、現在では国立公園や森林生体系保護地域等の保護地域を除いてまとまった天然林が存在している地域はほとんどない。
その中で、白神山地は集落から離れていることや地形が急峻であることなどから、人為的な開発が入らず広大なブナの天然林が残っていることが評価され世界自然遺産に登録されている。
一方、この地域のブナ林は、それほど規模は大きいとはいえないが、他の樹木が混じることの少ない“theブナ林”を比較的身近な場所で見ることができ、その多くは地域の住民が積極的に利用してきた里山のブナ林であることが特徴ともいえる。

‐ 市町村の木 ‐
ブナを市町村の木に選定する自治体について、全国市町村を網羅的に確認できる公式資料は不明だが、石(2017)によれば34、株式会社オカムラによれば35、ウィキペディアによれば36であることなどから、40程度と推定した。
このうち、信越県境付近においてブナを市町村の木に選定している自治体は、各市町村のホームページによれば、新潟県糸魚川市・妙高市・十日町市・津南町、長野県飯山市・野沢温泉村の6か所である。

a3自然保護の取組

‐ 国立公園 ‐
国立公園とは、次の世代も今と同じ感動を味わい楽しむことができるように、すぐれた自然を守り、後世に伝えていくところとして、国が指定し、保護・管理する役割を担っているものである。
信越県境地域には、上信越高原国立公園、妙高戸隠連山国立公園、中部山岳国立公園の3か所の国立公園がある。

‐ ユネスコエコパーク ‐
生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)は、1976年にユネスコが設置したもの。世界自然遺産が、顕著な普遍的価値を有する自然地域を保護・保全するのが目的であるのに対し、ユネスコエコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目的としており、保護・保全だけでなく自然と人間社会の共存に重点が置かれている。
ユネスコエコパークの登録件数は、122か国686件(2018年7月現在)で、日本の登録件数は9件(志賀高原、白山、大台ケ原・大峯山・大杉谷、屋久島・口永良部島、綾、只見、南アルプス、祖母・傾・大崩、みなかみ)。

‐ 鍋倉山のブナ林帯 ‐
鍋倉山のブナ林については、1986年に国の方針に従って伐採計画が発表されたが、水資源の枯渇や雪崩を危惧する地元住民や自然保護を提唱する人々により伐採反対運動が起き、学識関係者の調査により巨木の存在が確認される。その後、伐採の中止も含めた計画の見直しが国に認められ、今日に至るとされる。

特徴の成り立ちと影響の補足説明

b1 豪雪地帯

積雪は、積雪下で温度を一定に保つ効果がある一方、植物に雪圧を加えたり育成期間を制限したりもする。こうした積雪が、太平洋側と日本海側の植物の分布や組成の違いを引き起こす要因のひとつといわれている。
本州中央部では主に標高800m前後から上部にブナ林が出現するのに対し、たとえば日本海側多雪地帯の十日町市では標高200m前後からブナ林が出現しており、ブナの生育もきわめて旺盛であるとされている。
新潟県のブナクラス域の森林の林床には、ヒメアオキ、ヒメモチ、エゾユズリハ、ハイイヌツゲなどの常緑低木が多く生育している。これらは、多雪地帯に順応している植物と考えられており、そうした特徴を「日本海要素」とも呼ぶ。

b2 自然保護の取組

雪国ではブナが重要な資源であり、伐採を計画的に行うことによってブナを維持してきた。
ブナは生え変わりが遅い木であることから、無計画に伐採するとブナの純林ではなくなる。こうしたことも理解して、ブナ林を維持してきたことが、人の手が入りながらも純林が維持されてきた背景にあるとされる。

b3 森の保水能力

森林は“緑のダム”として河川へ流れ込む水の量を安定させる働きをもっている。特にブナ林などの林床には腐葉土が厚く堆積しスポンジのようになっており、豪雪地帯で大量の雪解水を蓄えることのできる保水力はかなりのものとされる。

b4 生活道具などの生産

ブナは柔らかいために曲がったり腐りやすい性質があり、材としては使いづらいとされている。しかし、ブナ以外の樹木が自然に育ちにくい豪雪地帯では、ブナの性質を知りうまく利用してきた。例えば、雪の重みに強い性質や乾かすと固く丈夫になる性質を利用して、家屋の梁や農具の柄、机・椅子などに使われていた。

b5 海の幸・山の幸の恵み

森林土壌にある養分は、地下水や河川に流れ出る水とともに海まで運ばれ、海藻やプランクトンを育てる栄養素となり、海の幸も育むこととなる。
雪の下では地温が高いため、下のほうから雪が解け、雪解けとともに山菜が伸び柔らかで良質なものが取れるといわれている。また、林床は腐葉土で肥えているので山菜が大きく成長する。

参考文献・サイト

※特に参考とした文献には●を付しました。

(植生全般 − 全国)
●福嶋司(2005):図説日本の植生、朝倉書店
・沼田眞(2002):日本の植生、講談社
●環境省生物多様性センターホームページ
・環境省ホームページ(日本の世界自然遺産)
https://www.env.go.jp/seisaku/list/sekaiisan.html
・環境省(重要湿地)
https://www.env.go.jp/nature/important_wetland/index.html
・環境省(1993):緑の国勢調査 自然環境保全基礎調査の概要
・環境省(1996):日本の植生 第4回自然環境保全基礎調査 植生調査報告書(全国版)
・林野庁(2014):保護林制度等の現状と課題、第1回保護林制度等に関する有識者会議資料
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/sizen_kankyo/pdf/siryou3_shuusei.pdf
(植生全般 − 特定地域)
・新潟県生活環境部自然保護課(1993)続・新潟県のすぐれた自然 植物編
・新潟県社会科教育研究会(1978):新潟県上越地方の地誌
・五百川裕(2008):縄文人が作った頸城の自然、直江の津 8(4) 4-10頁
・環境省長野自然環境事務所(2014):上信越高原国立公園妙高戸隠地域基礎調査業務 報告書
・十日町市(2017):ふるさと教材 ふるさと十日町
・十日町市教育委員会(2016一部改訂):わたしたちの十日町市 小学校3,4年生用の副読本
・佐藤卓・太田道人(2010):富山県に産する日本海要素とその近縁植物の分布の特徴
・日本海学推進機構ホームページ(日本海学講座 第1回 日本海側気候と植物)
http://www.nihonkaigaku.org/
(ブナ関係 − 全国)
・赤羽正春(1999):ブナ林の民俗、高志書院
・赤羽正春(2001):採集 : ブナ林の恵み、法政大学出版局
・佐藤雅一(1988):ブナ林の文化史-縄文時代、別冊とことん第5号、越書房
・長野県自然保護連盟(1989):「母なるブナ ブナと原生林・現代文明を考える全国集会」のまとめ
●市川健夫(1987):ブナ帯と日本人、講談社
・市川健夫(2010):日本列島の風土と文化Ⅱ ブナ帯文化と風土、第一企画、
・環境省(2016):平成27年度世界自然遺産候補地詳細調査検討業務 報告書
・森林総合研究所(2006):地球温暖化によりブナ林の分布適域が大幅に減少する、研究の“森”から№144
・松井哲也ほか(2006):地球温暖化により白神山地の気候はブナ林に適さなくなる、森林総合研究所研究成果選集
・白神山地世界遺産センター  http://tohoku.env.go.jp/nature/shirakami/
・黒松町内ブナセンターホームページ http://www.host.or.jp/user/bunacent/
(ブナ関係 − 特定地域)
・中部森林管理局ホームページ
http://www.rinya.maff.go.jp/chubu/policy/business/conservation/hogorin/index.html
●小林誠・永野昌博・伊藤千恵・村山暁(2011):雪里のブナ林のめぐみ、十日町市
・キョロロホームページ(松之山におけるブナ二次林の秘密~ブナ二次林における構造の多様性と樹木組成の関係~) http://www.matsunoyama.com/kyororo/the-study/
・信州いいやま観光局ホームページ(特集なべくら山)
https://www.iiyama-ouendan.net/special/nabekura/

更新履歴

  • 2022年6月7日 「その他の参考情報」を追加しました。
  • 2022年4月21日 ページを公開しました。